銀の風

四章・人ならざる者の国
―48話・他種の常識の端に触れ―


クークーに乗った一行は、街道沿いに首都・ラトアを目指した。
内陸にあるので沿岸からは遠いが、クークーがいれば問題はない。
いつものように、乗っている方は落ちないように気をつけていればいいのだ。
そんな中、ペリドがこう仲間に尋ねてきた。
「ラトアって、この中で誰かどんなところか知ってますか?」
「ああ、知ってるぜ。ついでに穀潰しウサギリスも。」
「誰が穀潰しやー!知っとるんは知っとるけど!」
嫌いなあだ名で呼ばれたのを聞きとがめて、リュフタはしっかり抗議する。
もっともリトラは彼女に見えないように、ちょろっと一瞬舌を出してそ知らぬ顔だ。
思惑通りリュフタは気がつかなかったが、
もし気がついていたら猛抗議されていただろう。
「ねえねえ、さっきのガーゴイルさんみたいな人もいっぱいいる?」
「おう。ドラゴンとかもいるし、珍しいやつらだっていっぱいいるぜ。」
「な、なんだかすごいところですね……。」
どんな闇鍋的な状況だろうというつっこみが脳裏を掠めつつ、
ペリドはちょっと引きつった笑みを浮かべた。
「そんなんで、けんかとかしないわけ?」
「そこは色々うまくやってんだよ。
つーか、おれだって全部知ってるわけじゃねーし。」
いい加減な言い方だが、
リトラだって自分の故国ではない国のことを全部知っているわけではない。
もっとも、ある程度は知っているのに面倒で言いたくないのかもしれないが。
「あ、そうですよね。ごめんなさい。」
「いや、あやまる必要はねーけど……。」
ペリドの反応に調子が狂うのか、リトラはガリガリ頭をかく。
遠まわしな嫌味でもなく素直に言われると、かえって落ち着かないのかもしれない。
「ラトアについたら、まずは宿を取らないとだな。
確か人間型が泊まれる宿は……。」
ルージュが到着後の予定を考え始める。
たぶん今の彼の頭の中では、
到着後の行動スケジュールがぱっぱと組み立て始められているだろう。
計画性がある仲間はありがたい。
リトラも計画がまっさらというわけではないので、
後でお互い考えを聞いておく必要はあるのだが。
「そういえば、宿屋はふつうなのかな……。」
「わかんないよー。」
“うーん、普通……だといいわね。”
見たことがないものを保証はしづらいのか、ポーモルは曖昧な相槌を打った。
真面目な話、あまりに変なつくりの宿だと困るのは確かだ。
最悪は眠るスペースさえあればいいが、
眠れなかったら困ると心配らしい。
リュフタから、首都はもっと変わっていると聞かされればそうもなるだろうが。
「そこまで心配せんでもええのに〜。」
「えー、リュフタは泊まった事あるわけ?」
「なかったら言えへんー!」
漫才風に叫びつつ、リュフタは笑っている。
この分なら、心配している3人は杞憂に終わりそうだ。


クークーが飛び続けていると、やがて広い森が見えてきた。
そこに取り囲まれた町が見えるのだが、それよりも一行の目を引くのは、森のシルエットである。
「うわ〜っ、って……な、何あの形?!」
「まぁ。まるで、三日月みたいですね。」
ペリドも感嘆の声を上げてしまうほど、見事な三日月形。
丁度欠けた部分に町がすっぽり収まっている景色は、まるで箱庭にしつらえたかのようだ。
「あっはっは!へ〜、なっかなかいいセンスじゃなーい?」
あんまり見事な形だからか、ナハルティンが大受けしてケラケラ声を上げて笑っている。
確かに、こんな狙った形はそうそうお目にかかれそうもないから、
ついつい笑ってしまいたくもなるだろう。
「リトラは笑わないの?」
大笑いしているナハルティンを指差して、フィアスが聞いてくる。
何故一緒にしたがるんだろうと思うが、深い意味はないだろう。
「別に笑わねーよ。いっぺん見てるし。
……でも、何度見てもやっぱ出来すぎだろこの形。」
笑い出しこそしないものの、
つっこみは入れてしまう辺りがリトラらしいというべきか。
だが、上から形を見て笑うために来たわけではない。
街道沿いに町の上空に近づくようにクークーに指示して、
リトラ達は街道の側に降りて町を目指して歩くこととなった。


―首都・ラトア―
大きな門をくぐった先は、人間の町とは全く違う印象の町並みが広がっている。
通りはきちんと整備されていて、人間の町と比べてもそん色がない。
ただ、店や住居が独特だった。
まるでかまくらか何かのような土でできたドームだったり、かと思えば、柵で囲まれた穴だったりする。
「な、なんだか動物の国もろっていうか……。」
「すごいところとしか、その……言いようがありませんね。」
思わずジャスティスも口ごもるのだから、
奇抜さは天使のお墨付きといったところだろうか。
「うーん……。」
「えーっと……何て言っていいんでしょうか。」
表現に困っているのか、ペリドはちょっと苦笑いをしている。
別に変だと笑ったりはしないようだが、
そうならないだけに言い方に困ってしまうのかもしれない。
気を使う性格だけに、思ったことを素直に言って失礼にあたらないか気になるのだろうか。
もっとも、気遣いではなく本当に感想の表現に困っているのかもしれないが。
「おもちゃ箱ひっくり返した感じだよね〜、
それとも、巣の見本市かなー?」
「あ、それ似てるかも……。」
「でしょ?あたしはこういうの好きかもね〜♪」
面白い物好きなナハルティンは、
この愉快な町並みがいたくお気に召したようだ。
センスについていけていないアルテマなどとは対照的である。
「これで驚いてるんやったら、この先はきっともっと驚くで〜♪」
「なんでむだにはしゃいでんだよ、穀潰しウサギリス……。」
リトラがわけ分からないといったような、げんなりした顔でリュフタを見やる。
付き合いは長いはずなのだが、
何でこのタイミングでテンションが高くなるのかはさっぱりらしい。
「まぁ、とにかく宿屋探すぞ。確か、左の道にいくつもあるはずだ。」
「へー、ルージュってこの辺くわしいわけ?」
案内や地図も見ずにそう述べたルージュに、すかさずナハルティンが聞いてくる。
すると彼は、ああ。と一言答えてこう続けた。
「一時期、この町に結構居たからな。」
「な〜るほど♪」
「どうりでねー。あんた、何かこの国にくわしそうな感じしてたし。」
アルテマも聞いていたらしく、しみじみうなずいている。
すると、ルージュがからかうネタを見つけたのかにやっと笑った。
「根拠はドラゴンだからとか言わないだろうな?」
「い、言うわけないでしょ!あんたあたしの事馬鹿にしてるわけ?!」
「何むきになってんだ。聞いただけなんだけどな?」
かまかけて見事に引っ掛けることが出来たのか、
ルージュは言うだけ言ってくるっとよそを向いてしまった。
アルテマの頭に、それだけで血が登るのは言うまでもない。
「だからあんたは嫌味だって言うのよーーー!!」
「わっ!どうしたのアルテマお姉ちゃん?」
話を聞いていなかったらしいフィアスが、
急に叫びだしたアルテマの声にびっくりして飛び上がる。
とばっちりで軽い災難をこうむるとは、気の毒な話だ。
「うっせーなお前ら!
とにかく、宿はルージュに任せておれ達は買い物だ。
色々買っとかねーとな。」
「じゃあ、道具屋さんに行くの?それとも武器屋さん?」
「せっかくだし、武器屋とかも行くだけでいいから行きたいよね。」
買い物と聞いたとたん、いつもよりもアルテマとフィアスの食いつきが良くなった
アルテマに至ってはなんだかうきうきしているようだが、
普段は買い物でここまで興奮しない。
「変わったもんとか期待してるのかよ?」
「当たり前じゃない。
だって、人間の国じゃないもので何売ってるんだろとか、あたし気になるし!」
「うん、ぼくも!」
「えっと、実は私も……えへへ。」
アルテマに続いて名乗りを上げたフィアスだけではなく、ペリドまでこっそり加わっている。
なんだかんだで、かなり多くのメンバーが店の品物に期待しているようだ。
たぶん、奇抜であることを期待しているに違いない。
「お前らなあ……。
そんなに期待したってしょうがねーだろ!」
「リトラはん。
つっこみもええけど、買い物の前にギルを換えてこんとあかんで〜。
でないと、ルージュはんも宿取りに行けへんよ?」
「あっ、そういやそうだったな……。
両替所にいかねぇと。」
面倒くさいとばかりに、リトラがちっと舌打ちする。
「両替所?もしかしてここは通貨が違うんですか?」
「いや、単位は一緒なんだけどよ……。
ちょっとな、金のデザインとかが違うんだって。まあ、見りゃ分かるけどな。」
中途半端な言い方しかしないリトラに、
ジャスティスはますます理解しかねたようだ。
眉をひそめて、納得しかねるといった風情である。
もっとも、リトラは嘘は言っていない。
事実、この後に彼の言葉は現実となった。


―1時間後―
両替所に行ったリトラとリュフタが帰って来るのを、
町の入り口付近で他の仲間達は待っていた。
そして、帰って来たリトラが見せた財布の中身を見て、
ジャスティスは先程の言葉の意味を納得することとなる。
「な、なるほど……こういう事だったんですね。」
「どういう意味?あんた、さっきなんか話でもしてたわけ?」
「いえ、両替の理由は見れば分かるといわれましたから。」
両替後の財布の中身は、硬貨の材質の比率が変わっているのだ。
銅貨が1ギルや10ギルだったのに、
何故かここでは材質が白い金属に変わっている。銀だろうか。
金貨も同様で、普通なら10000ギルであるところが、
もっと価値が低い1000ギルや5000ギルになっている。
だから当然、こんなことも起きる。
“な、なんだか……とっても重たそうになっちゃったわね。”
「実際重たくなっちゃったで〜。
まぁ、外のお金のまんまやとこの大陸じゃ使えへんから、しょうがないんやけどー。」
全財産を両替するなんてことは、
手数料などの都合もあってやっていないが、それでも結構な金額を換えたので重い。
「財布が傷みそうだな。こっちに少し移したらどうだ?」
「おう、サンキュー。」
重たそうに膨らんだ財布を見かねて、ルージュが空の皮袋をリトラに渡した。
重量が増すと、それなりに年季の入った財布には酷だ。
それに、万が一財布が壊れたら大惨事なので予防は大切である。
「じゃあ、これで宿たのむぜ。」
「わかった。
取れたらこの先の広場で待ってるから、買い物が済んだら来い。」
「ルージュ、よろしくね〜♪」
リトラからいくらか金を渡されたルージュを、ナハルティンが調子よく見送った。
ルージュはひらひらと手だけを振ってこたえると、
宿を確保しに行ってしまう。
残ったリトラ達も、今度こそ買い物だ。
「じゃあ、さっさと行くぜ。
ルージュをそんなに待たせねーからな、寄り道は後だぞ、後!」
「そんなに言われなくても分かってるってば!」
「はいは〜い、わかりましたっと。
ペリドちゃ〜ん、ルージュと合流した後で、かっわいいアクセ買いに行こうね〜♪」
もうすでにこの後の予定をちゃっかり決めている人物もいるが、
ともかくリトラ達は買い物すべく、
宿屋がある通りと丁度反対の方向にある商店街に向かった。



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さっそく首都に到着。案外進みませんでしたが(汗お買い物です。
町に着いたときの行動描写が決まりきってないかちょっと不安です。
と、いうか後半の1500字くらいは突貫工事だったんで、あらがありそうな予感。
まあ、更新ネタ確保のためとはいえ一体どのくらいぶりでしょうね。一気にこんなに書いたのは。
日課の行数チェックも、今日ばっかりは面倒ですね。20行数えるのも必死なのに(え